天風先生の講演録を文章に書き起したシリーズに「成功の実現」「盛大な人生」「心に成功の炎」があります(日本経営合理化協会、牟田学発行)。三冊ともに高い再評価を受け第二次天風ブームに火がつきました。さすが牟田氏でして掘り起こし貢献度に拍手喝采です。
この三部作に続いて出版されたのが「いつまでも若々しく生きる」でした(1998年刊)。私は当初この刊行はもう必要ないのではと考えていまして、三部作が好評でしたので、牟田氏も採算を度外視で天風会とお付き合いで出版したのかと思っていました。
さて、先日12月1日は天風先生の命日でしたが、今年は一度もお墓参りせずに年を越してしまいました。前回お墓参りした時は神戸から来た中年の天風会員に逢いました。墓地の入口で花と水桶をもってお墓を探しているしぐさで会員の方と察し「天風先生のお墓をお探しですか」と尋ね、お墓まで案内しました。
その方は花を添えながら「私は神戸から天風先生に命を救ってもらったお礼にきました。ほんと有り難うございました」と、報告しながら墓前に立ち「誓いの言葉」を誦句しました。私はその姿を見つめながら、天風先生が還元された今になっても、命を救ってもらったという会員がまだいたことに驚きました。
戦前は多くの方が治病を契機に入会しましたが、戦後は経済復興にともない自己啓発を動機にして入会する方が主流になってきました。入会の動機が「成功の実現」でして「健康の実現」でないわけです。ですからいまだに命を救ってもらったという会員がいたことは驚きでした。
家に帰り早速「錬身抄」とそれを基礎にした講演集「いつまでも若々しく生きる」を再読しました。収められている講演録は昭和32年から42年で、「肉体生活と自然法則」「健康と長寿の食餌」「統一式治病抄」などがテーマになっています。改めて読みかえしますと講演が実におもしろくかつ豊富な内容で、健康法としても十分参考になり得るものでした。改めて天風先生は医学博士でもあり、「天風会」の前身名が「統一医学会」であったことを再認識させられました。
著書に出てきます治病例をみますと、当時の医療常識からするととんでもない治病法なのですが、ひとつひとつが理にかなった納得が行くものでした。天風先生自身も「少なくとも五十年、百年後には、私の治病法が真理であったと気がつく時がくる」と繰り返して述べていました。
かくしてまる50年後の2014年12月10日の講演、「肉体生活と自然法則」を読み返えしてみました。その多くの天風式治病法と健康方法が、今の医療法からみても真理にかなっていることがわかりました。50年後の今も斬新さを失うことなく、最新療法ではないかとさえ思えてきます。
現代医学の発展と平行させて、このような治病と健康法に関する真理も天風哲理の一翼として語り継がれて行くことが必要になっているようです。「いつまでも若々しく生きる」をもって四部作とされた天風会と牟田氏に敬意を表します。
「健康と長寿というのは人生の重大問題であります。したがって、真実に体得者のみが説きうるという尊厳な問題であります。真実に健康である者がその健康法を説き、また真実に長寿である者がその長生きの法を説いてこそ、耳を傾けるべき本当の価値があるからです。ですから、私は、健康法については、私が四十五、六歳、真実に健康になりえてから説きだし、長寿法は、八十を越えてからはじめて説きだしたのであります」。ここに実証主義に徹した天風師の醍醐味があります。
尚、この機会におおいみつるの名著「生命活力の哲学」ー中村天風随聞記治病篇ー(春秋社刊)も合わせて、お薦めしておきたく思います。