腹式呼吸、ドローイング

 天風師が修行なされたヨーガの里は、ヒマラヤ連峰の西端、インドとネパールの国境をまたいだカンチェンジュンガ(8586m世界3位)の麓、標高約2100メートルの高地に位置しています。
 私がこの地を訪ねた時、2日間ほど軽い高山病で頭痛を覚えました。ジープでカンチェンジュンガの中腹まで行き、そこで呼吸操錬をやりました。後日この時の様子をビデオで見ましたら、本来ですと背筋が直立であるべき姿勢が、無様にも前かがみ60度くらいになっていました。この姿勢は呼吸が浅く酸欠によるもので、まったく見られたものでありませんでした。
 その時に気がついたことなのですが、天風師がヨーガの里に入られて2ヶ月の間なんの修行もなくぶらぶらしていましたが、これは無意味な時間ではなく高地の呼吸に慣れることにあったかと思いました。すでに高地の環境で呼吸修練が始まっていまして、それが後にクンバハカと結びついて完全呼吸法を完成させて行きました。クンバハカと深呼吸が一対になり完全呼吸(プラナヤマ法)となっていました。
 私が「2014年の新呼吸」の年賀を書きましたら、天風会補導の先生から有り難い教示をいただきました;
 「
天風先生が月光殿で講演される前、出番を待っておられる時、廊下の外に向かって呼吸法をされておられるのを思い出しています。常にプラナヤマの呼吸をされておられましたね。青年の時です。私はその時以来、常に呼吸法の事が頭にあります。我々の呼吸法は、胸式でもなし、腹式でもなし 完全呼吸法と呼んでいます。」と、天風先生が護国寺の月光殿でプラナヤマをなされている姿が彷彿してきます。
 補導のご指摘の通りでして、完全呼吸法はクンバハカを基盤にしています。クンバハカ体勢での深呼吸が前提条件ですが、クンバハカを知らない、或はクンバハカ法を実行している初心者に、いきなり完全呼吸を教示するには無理があるかと思います。完全呼吸法の前に先ずクンバハカを確かなものにする必要があります。
 私はそうした初心者にはクンバハカの練習と同時に、それを補強するドローインによる腹式呼吸を勧めたく思います。先ずドローインで腹横筋や腹斜筋など体幹深層部の腹筋を鍛えて、
脇腹をベルトかコルセット締める要領(きつめのジーンズやスカートをはく時の感じ)で意識的に腹を凹ませて腹圧を高め、収縮させながら肛門をグッと締める方法です(本エッセー「クンバハカ法再考」を参照)。

 
完全呼吸法とドローイングとの違いは、息を吐く時も、吸う時も、肛門を締め下腹部を、そのままのクンバハカ体勢で行うことにあります。ドローイングは腹横筋や下腹部を鍛えることで、健康、ダイエット、腰痛や姿勢の矯正を目的としていますが、完全呼吸法はクンバハカをより確かなものにするための手段でして、確かなクンバハカ体勢で深呼吸を行い空気中の活力を効果的に吸収することを目的としています。
 「少しでも疲れたとか、活気が抜けたなと思ったとき、これから活動力を多分に必要とする時など、すかさず実行することである」(天風)
 
完全呼吸は天風師の独自の創意による普遍的な優れた呼吸法ですが、創建されてから約一世紀が流れています。その後スポーツ医学の進歩、筋肉構造の探究が進んでいますので、そうした日々更新につれて完全呼吸法も改善がなされより完全になればと考えています。
 私事ですがドローイングを実行することで下腹のたるみが引き締っていくことが実感でき、クンバハカがより容易に確かなものになったことを体感しています。またクンバハカで交感神経の過剰反射を抑制する上でもドローイングが補助的な役割をしているかと思います。
 これまでですと常にクンバハカ体勢を意識してきましたが、ドローイン以降は格別に意識しなくても自然でクンバハカになり得ました。この180度の意識の違いは「体の悟り」と考えています。
こうしてクンバハカを基盤にした呼吸が自然体になり、そのまま静かに安定打坐に入って行けるようになって来ました。

                 2014年、節分の日に
 

月別 アーカイブ

この記事について

このページは、三休が2014年2月 2日 11:18に書いた記事です。

ひとつ前の記事は「2014年の新呼吸」です。

次の記事は「プラナヤマ法」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。