私が「心を建て直す」の著書のなかで、天風先生がヨーガの里ゴーケ村(Gorkay)での修行期間を1年9ヶ月間と書きましたら、読者から「勇気ある記述ですね」との問題提起を受けました。それからというもの折りあるごとに時代考証をしてきました;
1911年(明治44年)35歳、
・5月25日、フランスのマルセーユを絶望のうちに離れる。
・6月8日、カリアッパ師と邂逅(私の推定)。
・6月9日〜95日間の旅をして9月中旬にゴーケ村着。(3ヶ月)
・9月中旬〜11月中旬、修行への心の準備。(2ヶ月)
1912年(明治45年)36歳
・4月、1年7ヶ月で世界最速でクンバハカ会得。(1年7ヶ月)
・地の声、天の声、もう一人の自分等の課題の瞑想行。
1913年(大正2年)37歳
・3月、2年9ヶ月で悟りを開く、師が指導したヨギの中で最速。
・4月、「覚者」の聖名をもらいゴーケ村を離れる。(1年)
・5月、インド門までカリアッパ師に送られて香港へ。
1914年(大正3年)38歳
・4月、上海で山座円次郎大使と再会。
・5月、孫文を助けて第二辛亥革命に最高政務顧問として参加。
・8月、第二辛亥革命挫折、孫文は失脚し一緒に日本、帰国。
以上の流れからしますと、ゴーゲ村に2年9ヶ月、カリアッパ師と出逢ってから3年、天風先生が講演のなかで言われている「修行2年9ヶ月」、「あしかけ3年」が正解となります。
かつて満蒙の地で探策に従事した天風先生ですから、日時の記憶に間違いないと思いましたが、念のため再度考証してみました。私の考証は1913年4月から1914年4月の1年間が、すっぽりと抜け落ちていた事になります。私にとりミステリーの1年間です。
かくして日本に帰国し、頭山満翁の家に挨拶に行きますと、頭山夫婦は紋付着物で出迎え、天風先生を上座に坐らせ;「あなたは選ばれたお人じゃ。キリストは悟りたいために五カ年、釈迦は六年、マホメットが七年、その間どこに行ってたかわからなかった。それで全く見違えるような立派な人間になって現われた。あなたは自分自身をつくりかえて帰ってこられた。これは深い天の思し召しがあると思わなけりゃならん。『天のまさに大任をこの人にくださんとするや、必ずまずその心志を苦しめる』まさにあなたがそのとうり。これからのあなたは、あなたの人生を生きるのではない。人の世のために生きるために、あなたは生まれ変わられた。おわかりになったか」と、諭しています。
今からちょうど100年前の出来事になりますが、天風先生にとり、この3年間は神秘な冬籠り時期だったわけです。