先のブログで「赤富士」と今上天皇の「譲位」を書いた勢いで、野島芳明著「鏡と剣」の中から、私の最も感動した降りを記しておきたく思います;
「木下道雄氏(昭和天皇の当時の侍従次長)によれば、昭和6年(1931年)11月、昭和天皇は熊本での陸軍大演習をご統裁された。その帰途、お召艦『榛名』が鹿児島へお寄りになったときのことであった。お召艦『榛名』は夜になって鹿児島の錦江湾を出航した。沿岸の住民たちは、提灯をうちふり、篝火をたいてお見送りしていた。暗い闇を通して延々と続くその小さな灯の長い列が艦上からはるかに望見された。木下侍従次長は陛下がこの光景をどのようにご覧になっておられるかと甲板に出て見た。
すると、陛下は身じろぎもしないで直立不動の姿勢で、はるかな闇に向かって挙手の礼をなさっておられた。身じろぎもしない直立不動の姿勢で闇に向かって挙手の礼で立ちつくされておられるお姿は、もはや帝王でなかった。(中略)
『榛名』艦上で立ちつくして挙手の礼を続けられる陛下のお姿は沿岸で見送る人々には見えはしない。陛下のほうからも見送っている人々は見えはしない。けれども、目には見えなくとも、そこには陛下と国民との魂が一つに溶け合っているシンフォニーが美しく実在しているのである。見えようと見えまいと、陛下も国民もその真心に敬し、礼し、拝み合っているシンフォニーである。」
日本文化の形態は、こうした見えないもの、見ることができない幽玄な世界を、象徴としてきました。
「薩摩半島沿岸一帯、はるかに見ゆる奉送のともし火、盛んなるかな、山々には、かかり火、岸辺には、ちょうちんの群れ、延々と果てしなく果てしなくつづく。
さらば陛下、いざさらば、
おんすこやかに、おかえりませ。
ありがとう、皆も、元気でね。
ああ、これこそ、ほんとうの日本の姿、と私は思った。」(海上、聖夜の讃)
象徴とは
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