「愛国の熱情は尊敬すべきも、中庸の道を離れている」(朱子)
こうした熱情のあまり中庸の道を離れた戦前からの中国研究者はもういなくなりました。佐藤慎一郎ゼミの同学たちはみなそれぞれ家庭生活に入り、いまだに傘張りをして暮らす寅さんは私くらいかと気負って追悼もどきを書いてしまった。
私は佐藤慎一郎先生に南京事件の真実に挑んでいただきたかった。私が最初に先生から聴講したのは「祝南京没落」(南京没落を祝え)でした。「南京没落」は当日の新聞一面の見出しであり、南京市民が「祝南京没落」の旗や幟をかかげて街中を闊歩していたということでした。日本はこれを中国人が南京没落を祝って喜んでいると見下しましたが、中国人は全く反対の運動をしていたというのです。
中国語で「没(mei)」は「まだ」となり「祝南京没落」は「南京はまだ落ちてないことを祝え」と、真逆になるわけです。日本軍はこうした民族運動を誤解して軍を進めてしまったが、あの時点で南京はまだ落ちてないということでした。ですから大虐殺などありえなかったという話しでした(今にして思えばこのプラカードは両国どちら側にも都合のいいしたたかな民衆の保身だったかなと思う)。
中国人は鹿を指差してあれは馬だと平気で言えるので(日本にもいますが)、漢字の裏に秘められた真意をよく洞察すること、日中間のこうした発想の違いに慎重になれと教授してました。私が漢字に込められた真意に敏感になったのは、この時に端を発しています。
以上で佐藤慎一郎先生の追悼は終了です。
佐藤慎一郎(付録)
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