(佐藤慎一郎遺影)
佐藤慎一郎の肖像について続けます。
大分別府で竹細工の職人でもあるノンフィクション作家の鬼塚英昭が、何故これを書かずには死にきれないと、死を目前にし佐藤慎一郎を突如もち出して田中角栄の深層暗部に肉迫したのか。何故40年前の田中角栄の屍を掘り起こすのか。
鬼塚氏の遺言ともとれる「あとがきに代えて」を、長くなりますが涙ながらそのまま書き写してみたい;
「この本の原稿を書き終えた後に急に身体の具合が悪くなり、私は、読むことも書くことも出来なくなった。申し訳ないが、こうして話すことで、本書に込めた私の思いをお伝えしたい。田中角栄が中国共産党から三百億円ものリベートを受け取ったことで、この日本は暗黒国家に堕させた、私はそう考えている。(中略)かっての政治家は、ただ私腹を肥やすため生きているわけでなかった。誰もが金集めに狂奔する世は、田中角栄が生んだものだ。(中略)中共は今も日本の政治家を、そして日本を侮っている。それは日本の秘密を知り尽くしているからだ。だが、この本で紹介した佐藤慎一郎のような誠実な学者も日本には存在した。彼は最後まで日本政府から一銭も貰わなかった。大学から得た報酬は、そのほとんどを中国から逃げてきた人々の面倒をみることに費やした。(中略)彼は少しでも日中両国の関係改善の助けになればと考えたが、残念ながら田中角栄にその願いは伝わらなかった。この本を読んでいただいた方は、どうか、佐藤慎一郎の生き方に思いを馳せてほしい。彼は粗末な引揚者寮に家族で住まいました。長男は狭い三畳間で病気で死んいったと聞く。食べる者を切り詰め、出来た金は中国人の支援に充てた。政府の高級官史が料亭に招いても豪華な膳には食欲をしめさず、『オレはラーメンの二、三杯も喰わせてくれた方がいい』と憤った。徹頭徹尾、清貧を絵に描いたような生きざまであった。私は自分の人生の最後で佐藤慎一郎という素晴らしい男に出会えた。彼の人生の一端を描けて幸せだった」。
鬼塚氏は死を直前にして自分の人生をかえりみて、佐藤慎一郎氏の人生に重ね合わせたのだと思う。本書は佐藤慎一郎の総理秘密報告書通じて田中角栄の闇を告発しながら、清貧の佐藤 VS 金の権化の田中を対比させたノンフィクションになっています。
その意味で本書は、鬼塚氏自らと佐藤慎一郎氏の鎮魂になっています。(続)
佐藤慎一郎(2)
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