また百田尚樹さんの「黄金のバンタムを破った男」を、面白く読んでしまった。今回のメニューはボクシングでした。小説でなくボクシングの黄金時代をノンフィクションで描いています。ノンフィクションですと他の作家でも書けますが、百田さんらしいのはファイティング原田を通して戦後の日本が失ったスピリットにスポットを当て、ボクシング界の「三丁目の夕日」になっているところです。
私が面白く思ったのは、日本人初の二人のチャンピオン誕生に、二人のユダヤ人がからんでいたことです。
一人は、進駐軍(GHQ)から日本人の食糧支援のため日本周辺海域で採れる海洋生物の調査員として派遣された将校が、たまたま覗いた築地のジムで、引退を考えていたロートルボクサー白井義男(当時25歳)を見かけ、その素質を見出してコーチとなり、日本人初の世界フライ級チャンピオンに育てあげた、アルビン・ロバー・カーン博士です。
カーン博士は世界チャンピオン挑戦する白井に向かい;「日本は戦争でアメリカに負けた。今の日本が世界に対抗できるのはスポーツしかない。ヨシオ、君は自分のために戦うと思ってはいけない。それだけでは苦境を乗り越えれない」、「ヨシオ、君はこの試合で勝利することで、敗戦で失われた日本人の自信と気力を呼び戻すのだ」と諭しています。この言葉は迫害と辛苦な歴史を持つユダヤ人が面目とする人類愛です。
もう一人は、バンタム級で史上最強といわれたブラジル人、エデル・ジョフレ(29歳)vs ファイティング原田(22歳)の世界チャンピオン戦のレフリーをつとめた、バーニー・ロスです。
ロスは、ニューヨークでロジア系ユダヤ人の移民の子として生まれ、シカゴのゲットー(貧民街)でギャングとして育ち、その世界から足を洗いボクシングの世界に飛び込み、三階級制覇した偉大なる元ボクサーでした。打たれ強くどんな強打にもひたすら耐えぬき生涯一度もダウンしなかったファイターでした。
ジィフレ vs 原田の試合はボクシング史に残る名勝負で、ほぼ互角で終了し誰もが勝敗の予想ができず、後はレフリー兼主審であったロスの判定を待つだけでした。そして観衆の緊張のなかロスは挑戦者にコールしました。原田が史上最強の男に勝利した奇跡の瞬間でした。
百田さんはロスの判定に、打たれても打たれても、恐れる事なく勇敢に立ち向かって行くファイター原田に、かつての自分を重ね合わせていたとしか思えない、もしロス以外のレフリーだったら原田の奇跡の勝利はなかったかも知れないと書いています。
日本も日露戦争でユダヤ人を味方につけ勝利し、大東亜戦争で敵に回して敗戦しています。このあたりが国を持たないデラシネのユダヤ人の興味深いところです。
コメントする