夜叉が舞う(ブータン4)

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DSCN2684.JPG(農家の壁に描かれている男根と昼寝する二匹の野良犬) 
 ブータンは野生動物の天国といわれているが、それにしても野良犬がやたらと多いのに驚かされる。人里どこに行っても数十匹はすぐに目につく。野良犬はけして旅人と視線を合せることなく、まったく素知らぬようにして無視をきめこんでいます。悩み多き人様の化身でなく、お犬様に転生したことに満ち足りているのかも知れない。
 野良犬たちは夜行性なのか、昼間は道端に死んだように寝ていて、夜になると活動を始めます。犬仲間の縄張り争いのケンカだというが、夜半にすさまじい鳴き声で吠えるので、何度も目が醒めてしまう。

 ヒマラヤ秘境の山間に住む農家にはごく最近まで電気がなく、暗夜になると猛獣が出没し、不気味な夜叉たち飛びかい、それらを追い払って農民を守るのが、犬たちの本来の野良仕事だったのだろう。農民と野良犬との共存はその名残りかと思う。
 8世紀後半にチベット仏教がブータンにもたらせるまで、農村は夜叉を信じるアニミズム、呪術的な素朴な宗教が存在していました。その信仰形態が仏教と習合した今日でも農民の中に息づいています。多くの農家の壁に描かれた巨大な男根の絵の露骨さに圧倒されてしまった。男根信仰は、魔除け、子孫繁栄、豊穣を祈願する、農耕民族に共通してみられるもので日本にもあります。しかし、こう堂々と露骨に描かれると、旅行カイドも何の説明しないまま黙って素通りし、私らも気づかぬふりしながら、かろうじて盗撮。たしかにあの絵を見れば元気が湧いてきます。ヒマラヤの秘境に生まれしたたかに活き抜いてきた、ブータン人の内に秘めた強さをみた気がします。
 こうした農民の土着信仰は、8世紀になってチベット仏教に調伏されてゆきました。
男根は男女が抱擁して合体した歓喜仏に、野良犬に代わり夜叉を追い払う守護神として忿怒相に改宗されてブータン仏教へと定着して行きました。
 さて、いよいよ明日は今回の最終目的地、チベット仏教をはじめてブータンに広めた、密教修行者パドマサンババ(蓮の花から生まれた者)のタクッアン僧院へ向かうことになる。

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このページは、三休が2011年7月29日 04:04に書いた記事です。

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